こんばんは!
“はまねこ”です。
今回は話題のアニメ・漫画「鬼滅の刃」が大ヒットした原因について分析、解説したいと思います。
アニメ放送前は平均25万部発行のコミックが、アニメ放送3ヶ月後には138万部まで約5倍に拡大した現象は「イノベーター理論」で説明することができます。
これからヒットを仕掛けたいマーケターにも参考になる内容を盛り込みましたので、ぜひ最後までお付き合いください。
鬼滅の刃ヒットまでの経緯
一般公開されている情報を元にヒットするまでの経緯まとめてみました。
2016年2月 | 週刊少年ジャンプ連載開始 |
2016年6月 | コミック第1巻発売 |
2019年3月 | コミック累計350万部(14巻)※平均25万部 |
2019年4〜9月 |
アニメ放送(全6ヶ月2クール)開始 |
2019年9月 | コミック累計1200万部(16巻)※平均75万部 |
2019年12月 |
コミック2500万部(18巻発売、初の100万部突破)※電子書籍含む 平均138万部 小説版2作が累計70万部突破 |
注目したいのは以下の通りアニメ放送によってコミック発行数を大きく伸ばし、放送終了後も伸ばしているという点です。アニメの放送がヒットに大きく影響を与えているということが、ここから推測できます。
アニメ放送前:コミック累計350万部(14巻)※平均25万部
↓(期間:6ヶ月)
アニメ放送直後:コミック累計1200万部(16巻)※平均75万部
↓(期間:3ヶ月)
放送終了3ヶ月後:コミック2500万部(18巻発売)※平均138万部
アニメ放送はヒットの「きっかけ」だけど、ヒットの「決め手」ではない
ちょっと、一旦冷静になってみましょう。
・アニメ放送前でコミック累計350万部(14巻)
→既にそこそこ売れていた
・原作が売れてたからアニメ放送が決まった
→原作無し、完全新規ではなく、人気がそこそこあった
・週刊少年ジャンプの連載漫画である
→週刊少年ジャンプで連載できる時点で面白さはある程度あった
つまり、アニメ放送前の時点で「鬼滅の刃」は一定のファンが存在しているコンテンツだったわけです。
ポイントは一部のファン向けだった「鬼滅の刃」がアニメの放送をきっかけで一般層まで人気が広がったという点にあります。
「鬼滅の刃」ヒットの理由はイノベーター理論のキャズムを超えたから
イノベーター理論というものがあります。これは新しい商品の市場普及に関する理論で1962年、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャーズ教授の「イノベーションの普及」という著書の中で提唱されました。
それをまとめたのが上記のグラフです(すいません私の手書きです)
イノベーター(革新者)2.5% | いち早く購入する人。新しいもの好きで誰よりも先に手に入れたいと思っている |
アーリーアダプター(初期採用者)13.5% | 情報に敏感で自ら情報を収集し、良いとおもったら購入する人 |
アーリーマジョリティー(前期追随者)34% | 既に話題になっている商品を購入する人。口コミに影響を受けやすい人 |
レイトマジョリティー(後期記追随者)34% | 革新的なもの、一時的な流行には懐疑的だが周囲の半分以上が支持している状態になると安心して行動する人 |
ラガード(遅滞者)16% | 保守層。新しい物に興味がない人 |
ちなみにイノベイター理論を語る上で、各セグメントのパーセンテージは常に固定です。この割合で市場の消費者を分類できるという考え方です。
ここで注目してほしいのは
アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に「キャズム」なるものが存在するという点です。
この「キャズム」を超えてアーリーマジョリティ(既に話題になっている商品を購入する人。口コミに影響を受けやすい人)に入ると
それまで特定のコアファン向けだった商品が、一挙に一般受けするようになり爆発的に人気があがるというわけです。
つまり「キャズム」の前と後ではターゲットユーザーの中身が全く違ったものになります。ここを超えられると国民的ゲーム、アニメ、漫画、コンテンツになれるわけです。マニア向けで終わるか、家族みんなで楽しめるものになれるかという境目がキャズムです。
しかし、このキャズムを超えるのは至難の業です。多くのコンテンツがここを超えられず消えていくか、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの世界だけで生き延びています。
話を冒頭で説明した「鬼滅の刃」がヒットするまでの経緯を振り返ってみましょう。
アニメ放送前:コミック累計350万部(14巻)※平均25万部
↓(期間:6ヶ月)
アニメ放送直後:コミック累計1200万部(16巻)※平均75万部
↓(期間:3ヶ月)
放送終了3ヶ月後:コミック2500万部(18巻発売)※平均138万部
アニメ放送前の「鬼滅の刃」は
イノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)のどこかにいたはずです。
それがアニメ放送によってイノベーター、アーリーアダプターを超えて、どこかの瞬間でアーリーマジョリティー(34%)に踏み込んだと考えられます。
アーリーマジョリティーとは「既に話題になっている商品を購入する人。口コミに影響を受けやすい人」という定義ですから、アニメの放送がイノベーター、アーリーアダプターのクチコミを生み、それが拡大していったと思われます。
つまりマーケティング視点で分析すると
「鬼滅の刃」はここまでヒットしたのはアニメの放送でイノベーター、アーリーアダプターを超えて、アーリーマジョリティーに踏み込んだから
となります。
原作が面白いのは大前提です。でもアニメがそれを広く知らせる役割を果たした、ということになります。
これに近いパターンとして「キングダム」も「TV番組アメトーク」でキングダム特集がされてから大ヒットしましたが、これもイノベーター理論では「アメトーク」の放送でイノベーター、アーリーアダプターを超えて、アーリーマジョリティーに踏み込んだからと言えますね。
【ヒットの理由:アニメ放映でキャズムを超えられたから】
「鬼滅の刃」のヒットを確実にしたのはアニメを2クール放送にしたこと
ドラマ、アニメで使われる放送業界用語で「クール」というものがあります。
1クール3ヶ月(13週間)を指すので、1週間ごとに1話放送なら13話になります。一般的なアニメは1クール13話で構成されますが、「鬼滅の刃」は2クール(26話)で構成されています。
昔のアニメなら特別なことではないですが、近年のアニメで2クール放送はレアケースです。なぜならヒットしなければ1クールで撤退できるけど、2クールを選んだ時点でヒットしない場合のリスクが2倍になるからです。
ただし2クールを選んだことがイノベーター理論における「キャズム」を超えた理由のひとつだと思われます。
「アニメ放送で盛り上がったけど、1クールで終わってファンの熱が冷めてしまった」
ということを2クール放送することで2クール6ヶ月に渡ってファンの熱を維持し続けることができました。
その結果、「キャズム」を超えてアーリーマジョリティーに踏み込めたので、放送終了3ヶ月後にアニメからコミックに火がついてコミック2500万部まで大きな広がりができたわけです。
【ヒットの理由:アニメを2クール放映にしたから】
漫画コミックがあったらアーリーマジョリティーの中でさらに広がった
「鬼滅の刃」はサザエさんのように永遠にアニメ放送ができるわけではありません。2クールで当初予定していたアニメの放送は終了しますが
この時点でイノベーター、アーリーアダプターの「鬼滅の刃」に対する熱狂ぶりは高く、その熱はアーリーマジョリティにネットやリアルクチコミを通して伝播しつつありました。
しかし、アニメは見たし、放送も終わってしまったので、ファンにとっては「もっと鬼滅の刃を知りたい」という欲求を満たすコンテンツが必要でした。
その欲求を満たす役割を漫画コミック(アニメ放送直後では16巻まで発売されていた)が果たしたことは間違いありません。
漫画コミック自体は、アニメよりも一般向けのエンタメですし、アーリーマジョリティとの相性も抜群です。
「もっと鬼滅の刃を知りたい」という欲求が伝播した結果、アニメ放送終了3ヶ月後にコミック2500万部(18巻発売)、平均138万部となったわけです。
アニメ放送前の平均部数が25万部でしたから、138万部は約5倍も膨れ上がったことになります。
【ヒットの理由:深堀りコンテンツとしてコミック漫画があったから】
イノベーター理論だと「鬼滅の刃」は平均231万部まで伸ばせる計算
話をイノベーター理論に戻しましょう
現在、コミック平均発行部数138万部「鬼滅の刃」はキャズムを超えてアーリーマジョリティーのどこかにいると推測されます。
そして年末の国民的番組「紅白歌合戦」では鬼滅の刃のテーマ曲を歌ったLiSAさんが出演されることが決まっていますが、この番組に出た時点で確実にレイトマジョリティーは超えると思います。
※LiSAさんの役割は2013年にアニメ「進撃の巨人」の主題歌で紅白歌合戦出場したアーティスト「Linked Horizon(リンクトホライズン)」に近いと思います。
レイトマジョリティーの定義は以下の通りでした。
アーリーマジョリティー(前期追随者)34% 既に話題になっている商品を購入する人。口コミに影響を受けやすい人 レイトマジョリティー(後期記追随者)34% 革新的なもの、一時的な流行には懐疑的だが周囲の半分以上が支持している状態になると安心して行動する人
つまり紅白歌合戦の時点で世の中の過半数以上が「鬼滅の刃」の存在を知っている状態が作られるため、一時的な流行に懐疑的なレイトマジョリティーも動かすことができるのです。
イノベーター理論は各セグメントの割合が決まっています。レイトマジョリティーは全体の34%なので、ここを全部取り切ると138万部+93万部=231万部が現時点での「鬼滅の刃」の市場上限らしきところ、と計算できます。
ちなみに、その先に16%を占めるラガードがいますが、ここは保守的な層であり、意識して獲得しにくい層なので計算からは除外しています。
【イノベーター理論によるとまだまだ「鬼滅の刃」はノビシロあり】
キャズムを超える方法はたった2つだけ
キャズムを超えるために必要なことをシンプルにまとめると
・イノベーター、アーリーアダプターを獲得し
・彼らのファンとしての熱量が、アーリーマジョリティーに伝播すること
・この状態を作り出す方法=キャズムを超える方法
となります。
そのための方法は2つあります。
①「鬼滅の刃」のように既に熱狂的なファン(=イノベーター/アーリーアダプター)がいる状態でアニメ、小説などメディア展開でキャズムを超える
②広告で認知を高め、みんなが知っている、楽しんている、遊んでいる空気感をつくることでキャズムを超える
ただし、エンタメの場合は大前提として「そのコンテンツが面白い(=鬼滅の刃の漫画が面白い」必要があるので②だけではキャズムを超えられません。
ただし、非エンタメ系商材で、商品は優れていても競合他社との差別化がつきにくいジャンルにおいては①も重要ですが②がキャズムを超える役割を果たす場合もあります。
【エンタメ系でキャズムを超えられるかはコンテンツの面白さ次第】
ヒットの再現性を考えてみる
「マーケティング力とは再現力である」
勝手に私がそう呼んでいるだけですが、優秀なマーケターはヒットの打率が高いので、つまりそれは「再現力」があるとも言い換えられます。
ヒットした原因を探り、それを他の商品にも転用してヒットの打率をあげられるのが優秀なマーケターです。
そこで今回「鬼滅の刃」の例をもとに、他のコンテンツをヒットさせられないか、再現性を考えてみると、ズバリ以下の条件を満たせば100%ではないものの、「鬼滅の刃」の例をもとにヒットを仕掛ける入り口には立てそうですね。
①既に人気コンテンツである、完全オリジナルの場合は圧倒的な面白さ、ポテンシャルがある、かつキャズムを超える一般的にウケる内容である
②2クール放送のアニメである
③漫画、小説などファンの欲求に応えられるコンテンツがある
ただし、②と③は時間とお金をかければ対応できる世界ですが、①を作れるか、見誤らないかが最大のポイントになりそうです。
余談:スマホゲームとの相性は悪そう、家庭用ゲームがおすすめ
ところで、今後「鬼滅の刃」は映画化、舞台化などが発表されていますが、ゲームとの相性について最後に考えてみました。
結論からいうと
・まだコミック18巻しかないので、運用型サービスであり継続的なコンテンツ提供が必要なスマホゲームには相性悪そう
・売り切りパッケージ販売の家庭用ゲームには相性良さそう(PS4やニンテンドースイッチなど)
という印象です。スマホゲームの場合はどれだけコンテンツを切らさず提供できるかがポイントなので「鬼滅の刃」のゲーム化をしても、原作にはないオリジナルの展開を考えていかないとコンテンツが足りなくなりそうです。でも原作とは関係ないオリジナルコンテンツを「鬼滅の刃」ファンがどこまで求めているかは疑問です。
一方で売り切り型の家庭用ゲームの場合は「鬼滅の刃」のストーリー体験、名シーン再現で十分ファンを満足させられる可能性がありますので、こちらの方が向いていると思います。
最後に
「鬼滅の刃」がここまでヒットするには、圧倒的な原作の面白さは避けて通れません。つまり、エンタメ系の場合は絶対的に原作コンテンツの面白さが重要なのです。
そう考えるとマーケティングをやっている者としては「鬼滅の刃」のような面白さのポテンシャルを持つ版権モノを見極める力をつけるか、または自らクリエイターといっしょにコンテンツを作れるか、すべて「モノづくり」にかかっているということになります。
となるとマーケターの”はまねこ”としては、マーケターでありながら、もっとクリエイティブの部分に踏み込んでいかないとヒットは出せないという事を改めて再認識しました。
マーケターはできたものを売るだけではダメです。いっしょに作るところから入り込んで行く必要があります
モノづくりに関わるマーケティングのことを「プロダクトマーケティング」と言いますが、下記の記事で詳しく書いていますので興味がある方はご覧ください。